出汁を巡る冒険・最終回
 「この世界からそれぞれが飛び出して行くんだ。それぞれの出汁を持って」
 「どう云う事だ。云っている意味が判らない」
 皆、一様に口を合わせる。
 「比較的「上の境界に居た」けんつよなら判るだろう。世の中は2次元だけじゃないって事を」
 「・・・薄々は感じていたが」
 そう、けんつよは複雑な表情で答えた。俺はそれを受けて、
 「いつまでも2次元の出汁だけで満足していてはいけないんだ、3次元で充実した出汁ライフを送らなければ本当の出汁の味は判らない。要するに所謂リア充ってやつだ。俺はこの表現は大嫌いなんだがな」
 「3次元?」
 「・・・充実した出汁ライフ・・・か」
 誰かがそう呟くと一瞬の静寂が店内全体に拡がった。そして、 
 「3次元で出汁!3次元で出汁!3次元で出汁!」
 全員が出汁を合わせて、精一杯の出汁を取る準備をはじめた。皆、概ね同意してくれたようだ。
 「それじゃあ俺はこの辺で」
 「俺も行くとするか」
 「またいずれ何処かで」
 「さよなら、充実した出汁ライフを」
 「これからは心機一転、良い出汁を取って行くかね」
 「俺の方がより良い出汁を取るさ、お互い頑張ろうぜ」
 「どうか皆さん、お元気で」
 「そうだな、皆、達者に出汁を取れよ」
 そんな風にひとり、またひとりとこの全ての境界が崩れた世界から3次元へと自分だけの本当の出汁を取りに旅立って行く。
 そうして、最後にふたりきりになったところでけんつよが俺にこう切り出す。
 「3次元で出汁か。あんたはこれからどうするんだ」
 「どうするのかな。気が向いたらまた相変わらず訳の判らない事を垂れ流しているんじゃないか」
 「そうか。それがあんたにとっての最高の出汁と云う事か。さて俺ももう行く事にしよう」
 そう云い残してけんつよは旅立って行った。
 すっかり静かになったこの世界で誰に云うでも無く、俺は呟いた。
 「さあ、全ての「俺」へ告げよう。今直ぐにモニタの前から立ち上がって出汁を取りはじめようではないか」
 ・・・あなたの「出汁を巡る冒険」は、たった今、スタートしたばかりだ。

 完。


 参考資料・文献・ウェブサイト

 筒井康隆「朝のガスパール」(朝日新聞社)
 筒井康隆「電脳筒井線・朝のガスパールセッション・1、2、完結篇」(朝日新聞社)
 丸山健二「千日の瑠璃(上・下)」(文芸春秋)※芸は旧漢字。
 栗 良平「一杯のかけそば」(角川文庫)
 阿佐田哲也「麻雀放浪記・青春編」(角川文庫)
 T・イーグルトン「文学とは何か」(岩波書店)

 雁屋哲・花咲アキラ「美味しんぼ」(小学館)
 牛次郎・ビッグ錠「包丁人味平」(集英社)
 早川光・松枝尚嗣「ダシマスター」(集英社)
 「デュエリスト・ジャパンvol.1~18」(ホビージャパン)

 Island Walker Unlimited Edition(http://islandwalker.at.infoseek.co.jp/
 Private Square(http://privatesquare.web.fc2.com/
 まじっ九印どっとこむ(http://www.magikuin.com/
 Wikipedia(http://ja.wikipedia.org/wiki/

 (以上順不同、敬称略)

 この連載は2009年8月6日から2010年3月8日まで「けんつよの雑記帳(http://31867.diarynote.jp/)」にて掲載されました文章を一部加筆訂正したものです。


 あとがき

 この連載のきっかけは、日頃、あまりに訳の判らない馬鹿なことばかり云うものだから、ある人に、
 「これは自分だけが聞いているのは勿体無いです、是非ブログにでも書きましょう」
 と云われた事ではじまった、半分冗談のような話でした。
 連載当初はとりあえず「意図的にピントをずらして、平易な文章なのに読んでも良く判らない」と云う、「何と云うか読んでいて時間の無駄」な私の他人を煙に巻くところを楽しんでもらえれば良いかな、ぐらいのつもりだったのですが意外にも好評だったのでもう暫く連載を続ける事にしました。
 本当に最初から最後まで大したプロットも立てず、書き溜めも全く無くてモニタの前に座ってから話(この場合は出汁ですね)を考えると云う、適当な伏線を張りまくってるだけの馬鹿なお遊びをしていたのは概ね事実です。
 しかし、途中からこれは私の敬愛する作家である筒井康隆御大の「朝のガスパール」の構成をそのまま当て嵌められるのではないかと考え、幾つもの境界が存在する世界観を意識しはじめました。
 正直「出汁を巡る冒険」と云う連載はリスペクトと云うか、パクr…です。しかも凄まじくレヴェルの低い。
 それから(具体的に云うと)去年の10月末から休載しだした頃から、
 「この連載はできれば全50回で終わらそう」と決めていました。
 そこから結果的に紆余曲折を経て有る意味、綺麗にきっちりと噛み合って案の定、伏線を何一つ回収しないままドタバタするだけと云う私の予定通りに書き終える事ができました。
 一応、最終回の話だけは結構前にぼんやりと考えていまして、私が書いたにしては上出来の出汁は取れたかなと思っております。
 何はともあれ、こんなつたない、訳の判らない出汁に浸かってくれた皆様方に感謝を。
 それと、出汁にされてしまった方々と、私にこの連載をはじめることを薦めてくれた依頼人にも愛と感謝を。
 今は書き終えられたと云う気持ちだけですので、今後や次回作については未定ですが、皆様の希望があれば、また新たな形のライトノヴェル(あとがきまで引っ張るか)をだらだらと書きはじめるやもしれません(流石に続篇は無理ですが)。
 最後になりますが、日頃、現実の世界でご迷惑をお掛けしているのに笑って受け容れてくださる県内MTG関係者の皆様にも最大限の感謝を込めて。

 そして、この作品を私の最愛の妻に捧げます(妻は一度も読んでいませんが)。

コメント

リーダー山内
2010年3月8日23:49

いい出汁でてました。お疲れ様です。

ねんちき
2010年3月9日19:37

お疲れ様です。
やはり最後の一文でもオチを含む構成にニヤリとしました><

けんつよ
2010年3月12日20:03

>ALL
コメントありがとうございます。楽しんで戴けたなら幸いです。

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